2023/08/27

投稿日 2023/08/27

よくわからない高カリウム血症の思い出

スミヨシです。

ふと昔見た症例を思い出すことがありました。

高血圧程度しか既往のない高齢女性の患者が尿路感染で入院。
生来健康でCre正常なのですが近医の採血を取り寄せると、だいたいK が5後半から6くらい
特に症状もなく治療もされていない。
入院時の採血ではK 3.6と正常。
CBCも正常(血小板がむやみに多いとかもない)
心電図は正常。
コルチゾールやRAAも問題なし。サプリ服用などもなかった。

なんだろなあ溶血かなあ、ARBの影響かなあと思いつつ、割とすぐ退院したので、そんなに気にしませんでした。
後に福知山で働いたときに、偽高カリウム血症について教わりました。
もしかしてこれだったのかなあと思ったものです。

偽性高カリウム血症
(NEJM.1990; 322:1290-1292)
(UpTpDate®:Causes and evaluation of hyperkalemia in adults)

ざっくりいうと、採血の際に駆血帯とクレンチング(手をグーパーするやつ)をすると、Kが上昇するというものです。
あと血小板増多の時にみられるものも個人的には偽性高カリウム血症でいいと思っています(UpToDate®にもそのようにカテゴライズされてました)。




NEJMの図、黒●が偽高カリウム血症疑いの患者で、白○がボランティアです。
クレンチングをすると全員Kが上昇という内容です。
1mmol/Lとか上昇してますね。

筋細胞の脱分極がすすむ→カリウム放出が促進という機序っぽいです。


検査技師(採血者)の介入で偽性高カリウム血症は改善するという症例もあり、啓蒙しだいがありそうです。
(医学検査 2016;65(3):310-6)


あの人はこの病態だったのかなあ、でもそういや結構やせている方だったけどそういう筋力少ない人でもカリウムあがるのかなあとか、ぼんやり思っていました。
で、最近になって別の偽高カリウム血症もあることを知りました。


家族性偽性高カリウム血症

その名の通りで、優性遺伝疾患の、家族性の偽高カリウム血症です。
ABCB6遺伝子の異常により、低温環境下で赤血球からのK + 漏出量が増加する、けど溶血絵性貧血を起こさないようで、カリウムだけがあがるようです。

日本の報告はかなり少なそうです。自分では2例だけ報告をみつけました。

(Intern Med. 2005;44:875-8.)
滋賀医大より
生来健康な19歳女性の高カリウム血症
K 7.0mEq/Lで近医から紹介⇀病院では3.7mEq/L
いろいろ検査されたが正常
血清と血漿のカリウムを同時にはかると、5.3と4.3というふうに差があった。
→家族とボランティアをあつめて、血液検体を、低温、室温、体温でインキュベートし、その後時間ごとにカリウムを測定


患者、父は他の群にくらべ、放置した時および低温処理でのカリウム上昇がすごい!


(CEN Case Rep. 2023. doi: 10.1007/s13730-023-00781-y. Online ahead of print.)

聖マリアンナからの報告
73歳女性と75歳女性の2例の高カリウム血症
いずれも他院からの紹介で、病院では正常
→低体温で保存するとカリウム値が著明に上昇

診療所では採血が外注なので冷蔵で長時間保存されることで偽性高カリウム血症が生じてしまう、との内容でした。
病院勤務医ではなかなか見ないかもしれません。
勉強になります。
診断されていない症例も多くいるのだろうとは思います。

まとめ
腎不全や薬剤の影響のない、無症状の高カリウム血症は、偽性高カリウム血症も鑑別にいれよう!

ということでよいですかね。

最初に出した症例がこれらに当てはまるかは不明ですが、よくわからない高カリウム血症の鑑別として心の片隅においておきたいですね。

ではまた。


結論:偽性低カリウム血症もあるぞ!