2025/01/23

投稿日 2025/01/23

「NSAIDsとPPIを併用すると下部消化管出血が増える」を見て思うこと

スミヨシです。

生きてます!


ちょっと忙しくて全然更新できていないですが今年もがんばります。

大学を辞めて医学の情報源がもっぱらXになってしまいました。


そんななかで気になる内容が目につきました。

曰はく、

「NSAIDsにPPI併用で下部消化管出血が増える」

とのこと。


で、それをみた人が

「レバミピド使えばいいのか」

「やばいタケキャブ併用してた。。」

みたいな反応してました。


タケキャブがPPIなのかという疑問はさておき、ちょっと釣られすぎな感もあったので実際に読んでみました。


Risk of Lower Gastrointestinal Bleeding in Nonsteroidal Anti-inflammatory Drug (NSAID) and Proton Pump Inhibitor Users Compared with NSAID-Only Users: A Common Data Model Analysis

Gut Liver. 2025 Jan 3. doi: 10.5009/gnl240247. 


韓国の5病院のデータベースをつかった後ろ向き研究

90日以上 NSAIDs or アスピリンとPPIを併用している患者(以下 PPI併用群)と、90日以上NSAIDs or アスピリンを使用している患者(以下 単独群)を対象

あと比較のためにNSAIDs+MPA(いわゆるレバミピドみたいな胃粘膜保護薬)の併用患者も対象

下部消化管出血の有無はSNOMED-CTコードに基づく(直腸出血含む)

これを傾向スコア使って比較




PPI併用群単独群にくらべて下部消化管出血が多い

(hazard ratio, 2.843; 95% CI, 1.998 to 4.044; p<0.001).




MPA群単独群と有意差なし

(hazard ratio, 2.057; 95% CI, 0.714 to 5.924; p=0.172)


これをもって、NSAIDs+PPIはNSAIDs単独に比べ下部消化管出血のリスクを上昇させうる、MPAは上昇させなかった、という〆

併用群が下部消化管出血が多い理由の考察には、PPIで小腸の細菌増殖とか腸内細菌叢の異常とか書いてました。


思ったこと

さすがにこれをみて、NSAIDsにPPI併用はやめよう!レバミピド一択!!

とはならないです。


①Nは多くても観察研究

この論文の微妙な点はやはり薬を飲んでいる人vs薬を飲んでいない人の観察研究である点だと思います。

薬を飲んでいる人vs薬を飲んでいない人の比較は良くも悪くもその薬の効果を示せないことや、関連性をみる観察研究では因果関係は示せないことがあり、今回のものもNSAIDsとPPI併用で下部消化管出血が増える直接の因果は不明と考えます。

PPI服用している人はそもそも出血おこりやすい?とかそのあたりが何とも言えない。。

ここは本文limitationにも記載あります。

一応抗血栓薬処方している人は調整後は両群n=8728 ずつでPPI併用 76.0% vs 単独 73.2%で比較されてます。


まあ、正直自分はこの分野の言語化がすっごく苦手ですので、Dr.すきとほる氏のブログを読みましょう!!!!

薬剤曝露シリーズ③ Prevalent user biasとその対処法について


②そもそものPPIのアウトカムとの兼ね合いが不明

そもそもNSAIDs投与にPPIを併用するのは、胃潰瘍・十二指腸潰瘍のリスクを下げるためでしょう。

メタアナライシスでNSAIDs投与中の患者におけるPPI併用は症候性潰瘍のリスクを下げることが分かっています。

(PPI 168例中1例 vs プラセボ 175例中17例; relative risk 0.09, 95% CI, 0.02 to 0.47)

BMJ.2004 Oct 23;329(7472):948.

結局、下部消化管出血のデメリットがこのメリットを上回るのかという話です。

それがないと実臨床に活かしづらい。

今回のデータではそこが示されていません。

いまいち下部消化管出血がどれくらいに起きたのかが読み取りづらい。。

あとは①とかぶりますが、単独群で上部消化管出血が起きたためにNSAIDs中止になった人なんかはこの研究ではよいデータの方に組み込まれてしまう。


「敗血症にメロペネムを使用した群とペニシリンGを使用した群ではメロペネム群の方がけいれんが多かった」という論文があったとして、じゃあ敗血症にはペニシリンGがよいのだ!とはならないと思うんです。

そもそものアウトカム(敗血症の治療)が達成できないリスクが高いので。。

この例適切か?


あとはNSAIDsにアスピリン入れるなよとか、PPIとかNSAIDsの使用期間は傾向スコアに含めないのかなとか、90日以内に出血起きてる数はどんなもんなのかとか、SNOMED-CTコードてなんや、直腸出血含めるなよとか、細々したところもありますがまあそこはよいでしょう。


まとめ

NSAIDsとPPIの併用で下部消化管出血が増えるかはなんともいえない。

リスクが高いとしても現時点での診療をかえるデータではない。


Xだけで勉強してるとキャッチ―なフレーズに引き込まれすぎるのでやはり原著を読むのは大切ですね。

ではまた。


結論:ロキムコランソをする日がやってくるかもしれない(こないで)