スミヨシです。
内服抗菌薬に関して、なんか色々考えすぎた症例がありました。
単純な出来事を複雑に考える感染症界隈の悪いところが出てますが、今更ながら自分の振り返りとしてブログらしく、だらだらとつづります。
※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。
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50歳女性
乳がん術後の患者
X-7 腋窩に限局性の発赤、腫脹、疼痛が出現
熱は37.0-37.5℃程度
皮下膿瘍と診断された。穿刺時のグラム染色ではGPC-cluster
リンパ漏などは無い患者。
外来治療で選択すべき抗菌薬の相談をうけた。
対応は?
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まあ、症例自体は通常の皮膚膿瘍と思ってください。
これいつも皮下膿瘍という言葉が正しいかよくわからんので皮膚膿瘍と呼んでますが違ってたらすみません。皮下膿瘍と置き換えていただいて大丈夫です。
なんせ、穿刺してくれてるのでそれをグラム染色してみたらGPC-cluster見えているという状況です。
で、抗菌薬選択どうするか相談受けた感じです。
皮膚膿瘍に対する抗菌薬は必要?
(Clin Infect Dis. 2014;59:e10-52.)
そもそもが皮膚膿瘍に抗菌薬が必要かどうかの議論があります。
2014年のIDSAガイドラインでは
「軽度のものは切開排膿のみ、中等度以上で切開排膿+抗菌薬考慮」
となっております。
中等度の定義は発熱や頻脈などの全身症状、時代もあるでしょうがSIRSを使ってそうです。
この症例は38℃ありませんので抗菌薬いらないですと断りましょう!!
しかもmildの症例は培養、グラム染色も不要と記載あります!
なんで穿刺したのか、その培養で無駄なコストが発生していることを問い詰めましょう!!!!
完!!!!!
・・・ところが、おそらくはここ数年で風潮はかわりつつあります。
A Placebo-Controlled Trial of Antibiotics for Smaller Skin Abscesses
全身症状のある患者は除外されている単純性皮膚膿瘍に対して、切開排膿後の7-10日後の臨床的改善をプラセボvs抗菌薬投与群で比較
プラセボ vs CLDM vs ST
68.9% vs 83.1% vs 81.7%
S.aureusは527人(67.0%)、MRSAは388人(49.4%)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は104人(13.2%)、連鎖球菌は54人(6.9%)
というわけで切開排膿後の軽症の皮膚膿瘍に対しても抗菌薬の利益はありそうです。
ただし有害事象がプラセボ 12.5%に対してCLDM 21.9%、ST 11.1%です。
ダラシンはちょっと不利ですね。
そんな感じで、BMJのAntibiotics after incision and drainage for uncomplicated skin abscesses: a clinical practice guidelineでは、このことや、新たな膿瘍の再発予防にも及ぶため、抗菌薬投与に肯定的です。
抗菌薬の種類
こういうとき、自分が総合内科でそういう教育を受けたからかもしれませんが、narrowなセファレキシン(第一セフェム)から始めてダメならescalationという戦略を好む内科医はそれなりにいるんじゃないかと思います。
しかしながら、皮膚膿瘍に対するセファロスポリンは切開排膿単独と比べて治療失敗率を下げるデータはありません。
先述のBMJの論文も "However, the panel felt that cephalosporins were unlikely to provide any other benefits if they do not reduce the risk of treatment failure compared with placebo (low quality evidence). This evidence directly applies to almost all settings where the prevalence of MRSA is more than 10%"
MRSAが10%を超えるような地域ならセフェムはダメ―!って感じです。
そもそも切開だけで治る人がいるからセフェムでもいいじゃんと少し思いますが上乗せ効果に乏しい薬をわざわざ足すなというメッセージなのかなと理解しています。
まあ、蜂窩織炎は溶連菌が結構多いのに対して、皮膚膿瘍は先述のデータとかみるとMRSAやCNSが多くてセフェムが当たらないからなのかなあとは思います。
STとDoxycyclineは同等という小規模なデータはあるのでテトラサイクリンでもよいと思います。
(この研究では34名中32名が膿瘍の培養陽性と書いていて、MRSA 68%、MSSA 12%)
(Antimicrob Agents Chemother. 2007;51:2628–30. )
そういうわけでこの状況ではST、CLDM、テトラサイクリンが個人的には望ましいかなと考えます。
先述の症例は、
・全身症状はそこまで低くないが、他の先生が外来フォローをする点
→踏み込むと主治医が抗菌薬投与をしておきたいと思っており、その追い風となるデータもあるのでまず抗菌薬は投与する
・GPC-clusterが見えており、セファレキシンではなく、バクタを使用
こんな感じで治療しました。
なお、起因菌はMRSAでした。
いろいろ考えずにバクタ!!セファレキシン!!と叫んでも上手くいったんでしょうが、何かに基づいておきたいという思考は大事だと思っています。
日本だともう少しMRSAが少なくいかもしれず、セフェムでもよいかもしれませんが、GPC-cluster見えてたら自分はバクタとかミノサイクリンを使いたくなるなあって感じです。
切開排膿できないパターンはしらん。
あとmildであってもグラム染色していい派です。
ではまた。
結論:カンファレンスの時に長期クリンダマイシンいっている症例を、「ねるねるねるね」みたいに「だらだらダラシン」というと感染症医は皆ちょっと笑うぞ(状況的に笑わない感染症医もいるぞ)!