※この記事は2021年8月に書いた記事を一部修正したものです
最近は雨も多く、私の働く福知山でも川の氾濫がおっかない感じでした。
今のところは落ち着いていますが、また台風なども来るでしょうし、警戒はしといたほうがよさそうです。
最近、珍しい症例ですが、洪水の後に増えるある疾患で頭を悩ませることがあったので、勉強がてらまとめようかなと思います。
実際経験した症例は別診断でしたが、いずれ現れたときに備えておくのも大事かと思います。
※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。
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50歳男性
X-8日 大雨で床上浸水した。水につかりながら、清掃などを行った。
X日 発熱、頭痛、嘔気、筋肉痛、結膜充血があり内科受診。
採血ではAST100U/Lと肝逸脱酵素上昇。CRP 10.0mg/dl
尿検査では潜血2+ 蛋白1+
コロナ禍で他の都道府県の行き来はなし。
対応は?
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実際こういう患者がくると、なにかのウイルス感染か、なんて思っちゃいます。
コロナのせいで海外渡航歴を聞く習慣がうすれて(※注 当時は京都や大阪に行っても渡航歴扱いされるほど地域は厳しい環境だった)輸入感染症のカテゴリは鑑別に浮かんでこなくなってきています。
私だけ?
この症例は、レプトスピラ症のつもりでプレゼンしてます。
PCRを、検査可能な場所におくって、ドキシサイクリン内服を考えるかもしれません。
レプトスピラ症
Leptospira sp.(GNR)によって引き起こされる人獣共通感染症
病原性レプトスピラは保菌動物(ドブネズミなど)の腎臓に保菌され、尿中に排出される。ヒトは、保菌動物の尿で汚染された水や土壌 から経皮的あるいは経口的に感染する。
(国立感染症研究所HPより)
疫学
東南アジアでの発生例が多い。
日本でも2007-2016年にかけて30都府県から284例の届出があり、国内感染例は15-42例発生とのこと。
(日本感染症学会HPより)
国内の症例は台風や洪水後などの淡水暴露歴がある。
沖縄で川遊びをすると起こるので、レジャーやバーベキューをしていないか聞くべし!と教えてもらいました。
2023年に東京で出ましたね。
淡水暴露はないけど惣菜店でネズミが出ていた、とのこと。
診断されていない症例もあるのかもしれません。
症状など
潜伏期間は2-26日(平均10日)
症状は、発熱、頭痛、筋肉痛が主で、眼球結膜充血は比較的特徴的な所見だが、報告によってばらつきがある。
また、重症型では、黄疸、腎不全、出血傾向(肺出血など)を3徴とし、ARDSや心筋炎なども起こす(いわゆる、ワイル病)。
(日本感染症学会HPより)
検査
肝逸脱酵素上昇やCK上昇がみられる。
重症例では血小板減少やビリルビン上昇、腎不全など
尿検査では尿細管障害をみる
診断
・臨床検体からの菌の分離
・MAT法での急性期と回復期で抗体価が4倍以上の上昇
・MAT法で抗体価800倍以上
・PCRなどで遺伝子検出
・蛍光抗体法による菌体の照明
上記のいずれか1つを確認
日本では国立感染症研究所でPCR、MATともに可能。
治療
軽症例は、ドキシサイクリン 1回100mg 1日2回
アモキシシリンやアジスロマイシンが選択肢
重症例は、ペニシリンG150万U 1日4回、セフトリアキソン 2g 1日1回
(サンフォード 2020、UpToDate®︎より)
梅毒同様、Jarisch-Herxheimer reactionによる発熱に注意。
忽那先生の「症例から学ぶ輸入感染症 AtoZ Ver2(中下医学社)」では、淡水暴露で感染しうる感染症に、レプトスピラ、住血吸虫、アカントアメーバ、ネグレリアの記載がありました。
診断できる気しないっす。
思いつかないと聞けないですが、全身症状のある熱や頭痛、結膜充血があれば、レプトスピラを疑って淡水暴露やネズミの暴露を聞くことができるといいかもしれませんね。
肝障害や尿検査での潜血など探しに検査はしたいです。
ではまた。
結論:床上浸水はマジで心おられるから全人類2階に住んだ方がいい。