2021/01/28

投稿日 2021/01/28

高齢者の救急やCovid-19の意思決定の決め方

スミヨシです。

Covid-19の入院はだいぶ高齢者が多くなっています。
急な増悪もありますし、入院する方は、呼吸悪化時にどのように対応するか、ほぼ全員に確認しています。
もちろん、延命の意味合いの強い挿管、肺炎の治療の見込みがあるうえでの挿管はわけて考えなければいけないですし、十分に説明をしたいところです。

しかしながら、がんなど、ゆっくりと時間をかけて終末期を迎えることのできるような病態とちがって、Covid-19は突然の増悪が起きる上に、面会もできない状態に陥ります。
それまでに急変時はどうする、という話をできていればいいのですが、そういう家庭ばかりではないかと思います。


救急の場も同じで、急に致死的な病態に陥った際に、治療をどうしますか、と聞かねばいけないことがあります。
緊急性も高く、得られる情報も少ない、家族の動揺も強い場面です。
こういう救急の場は若手医師や研修医がメインですので、この場面での家族とのコミュニケーションが不得手な先生や、やや強引な先生が多いと感じます。私もそうです。

パターナリズムとインフォームドコンセント

かつて、医師からの説明というのは、パターナリズムがメインでした。温情主義とか、父権主義とか訳されるものです。
簡単にいうと、医師は、患者のためによりよい選択をしているので、医療のことを知らない患者は、それに従うべきだ、という考えです。
「胃がんになったのだから、来週手術をして、抗がん剤をつかいましょう」
みたいな感じでしょうか。

時代がかわり、僕たちの教科書では、パターナリズムは今の時代にそぐわない、かならずインフォームドコンセントでの意思決定支援を行いましょう、とあります。
インフォームドコンセントは医師は治療内容を説明し、患者はその利益を十分に考えたうえで、合意か否か、判断して治療を行うというものです。

現代の意思決定はたいていこの形式がとられることが多いです。
しかし、動揺の強い場面であり、患者家族が意思決定できない場合や、ほかの家族がたくさんでてきて、意見がまとまらない場面など、しばしば経験します。

治療方針は家族が決定するものだ、と習っているので、医師も困ります。
すると、今すぐ決めてくれなければ困りますとか、何も決定していただかなければ我々は救命するほかないです、といって家族に丸投げになってしまい、急変して、人工呼吸器装着、その姿を家族がみて後悔する、という場面も見てきました。
逆に、蘇生をしてほしくない、という意思決定をした故、患者を見殺しにしてしまった、という罪の意識を抱いてしまう家族もいらっしゃいました。


▼リバタリアン・パターナリズム


インフォームドコンセントは現代医療において極めて重要なアプローチかと思います。
しかし、治療方針を家族にすべてゆだねてしまうのは時にうまくいかないこともあります。

個人的にはある程度のパターナリズムは今の時代も必要と感じます。
ただし、前時代的なものではなく、リバタリアンパターナリズムというカッコいい言葉があります。

これは共感的パターナリズムとか言ったりします。相手の価値観や意向を共有したうえで、その思いを叶えてあげられそうなプランの提示をすることです。

もしワインのことを全く知らなくても、「少し甘めのものが飲みたい」「赤ワインよりは白ワインが好み」と伝えれば、ソムリエは最適のワインを選んでくれます。
このことから、私はソムリエ・パターナリズムと呼んでいます。



例えばCovid-19に関しては日本での人工呼吸器の死亡率なんかもでています(日本COVID-19対策ECMOnet COVID-19 重症患者状況の集計)。










このデータを出しつつ、今まで蘇生コードを家族で話したことや本人が言っていたことはあるか、とか、最近の調子はどうだったとか、高齢になると人工呼吸器を使用したとしても救命率が低く、残された時間がつらい時間になるのが、心配である。お話を聞いていると私たちとしては、人工呼吸器の使用は差し控えたい、とか言ったりします。(本当はもっと多くの言葉をつかって、家族の意見も聞きつつですが。)
たぶん、ここの、差し控えたいというセリフを出すのをためらわれたり、よくないんじゃないかと思ったりする医師も多いかとは思いますが、押しつけにならないように、自分だったらこうする、というのは伝えることがしばしばありますし、意外とうまく話がすすむ印象があります。

もちろんそれでも迷われる方もいらっしゃいますが、それでもできるだけ家族が納得いただけるように治療方針が決められたらなと思っています。
そして意思決定したあとも逐一病状を丁寧に説明することも重要だと考えています。

Covid-19はこういった話を電話でしなければいけないことが多いことも大変です。若手の医者はこういったことより華々しい医療に興味のあることが多いですが、急性期の急性期の緩和ケアは、今後の総合診療医としてのスキルとして重要だと感じています。
こういったところも研修医に指導できればいいなと感じます。

ではまた。

参考:治療 2020年9月号 急性期の緩和ケア 南山堂


結論:ソムリエをつければどんな単語もかっこよくなる。