2023/05/04

投稿日 2023/05/04

【症例】85歳女性 食事量が少ない

スミヨシです。

ありがたいことに今年になってから、研修医の内科外来を指導するさせていただくことがあります。

teaching is learningとはいったもので、いざ教えるとなると、適当にしていた部分も勉強しなきゃなあという気持ちにさせてもらえます。

この前の症例の研修医の反応が印象的でしたのでまとめてみました。


※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。

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85歳女性
5年前に認知症の診断をうけた。そのあとから食事量が落ち、家族に連れられて受診。
本人は特に困っていない。活気が無いわけでは無く、食欲がわかない。
嚥下はできている。入れ歯も問題ない。
食事は1日に1食程度。BMI17程度。
杖を使用せずに屋外を歩行可能だが、金銭の管理はできず、隣の家の人の名前も思い出せない。
生来健康で、内科的疾患は高血圧のみ。
かかりつけで降圧薬のみ処方。採血は半年に1回行っている。


対応は?
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なんとなく、おそらくぱっと問診表をみて、何もせずに経過をみる方針にしていくパターンが頭に浮かぶ場面かと思います。
自分なら急いで検査をするよりも、家族や周囲が何を望んで受診されたかを傾聴することから始めます。
もちろん内科的疾患で無いにしても高齢者うつがあるので注意は必要かと思います。


救急なら明日内科受診してください、で済みますが内科外来はそうはいきません。
意外とこの、「明日○○を受診してください」が口癖になっている研修医が多いので、このあたりをうまく研修医が家族に説明できるようにトレーニングしたいと考えています。


で、研修医の先生にお話を聞いていただいたところ、食事量が少なくなっていて、内科の病気は今まで指摘が無いし、どうしてだろうと家族が心配になったことが受診理由だったようです。
で、案の定、がんスクリーニングをどこまでするか、採血は何を出すか困っていました。
でも、食思不振(食事摂取量低下)の鑑別に認知症が入っていませんでした
「年齢のせい」と何が違うんだといわれると少し弱りますが。。


「認知症だけでも食事摂取低下の原因になることがわかっている」ということを示すと、結構うまくいくかもしれない、ということを研修医と共有しました。
そのうえで、この分野が感覚的だったので、認知症と食事摂取低下のことが書いている論文を調べてみました。


Eating Behaviors and Dietary Changes in Patients With Dementia

(Am J Alzheimers Dis Other Demen.2016;31:706-16.)


PubMedなどを用いて、認知症患者の食生活や食欲の低下について述べた論文をあつめてレビューしてみた、という内容です。




この認知症のパターンごとに食事摂取量の落ちる原因や、過食の特徴などが記載されている表が面白いなあと思っています。

臨床で使いづらい点は、日本の特徴かどうかわかりませんが、認知症の原因疾患まで特定されていることが少ないからです。

あと、「高齢者の甘いものの過食はピック病を疑え」というパールがありますが、これをみると認知症を伴うパーキンソンや、PSPでも見られるようですね。

この論文を研修医に共有したのは、単純にどのパターンの認知症でも食事摂取低下がみられることと、認知症の後期にその傾向が多くみられるという2点を示すためですね。


あとは似たような内容で「体重減少」や「やせ」を主訴に来院されることもあります。

認知症と体重減少について調べたメタアナライシスがあるので、それも参考でしょうか。

(Curr Alzheimer Res.2021;18:125-35.)


まとめ

研修医にとって、「食思不振」や「体重減少」の鑑別に認知症が意外と入らないかもしれない。


まあ、言語化できていないだけで、年齢重ねるとだれしも食事量おちる、というのは言わなくても分かっている事だとは思います。。


今回は丁寧に説明を行い、認知症のこともあるので病気探しはしないこととなりました。

入れ歯も問題なく、問診上は嚥下機能も問題ない、とのことで、評価も見送りました。ここは意見の分かれるところかもしれません。


ではまた。


結論:認知症関連の論文をもってきたときに研修医が喜ぶのをみたことがない。。。