スミヨシです。
感染性心内膜炎(IE)は、持続菌血症から存在を疑うことがあるし、その菌血症の解除が重要です。
つまり、IEの診断、治療にフォローの血液培養がかかせません。
IEと確定している症例はあまり困らないのですが、問題はあまねくGPC菌血症に血液培養フォローが必要なのかという点です。
他院の先生から、
「たとえばG群溶連菌の蜂窩織炎まで血液培養フォローが必要なのか」
ということを聞かれたので調べてみました。
(というより師匠から教えてもらいました)
Duke-ISCVID2023
そもそもこの議論が生まれた背景に、Dukeのupdateがあります。
Duke-ISCVID 2023では、大基準の一つが、
・IEに矛盾しない菌が血液培養から2セット以上
となっています。
で、このIEに矛盾しない菌、以前はStreptococcus viridans, Streptococcus bovis HACEK staphylococcus aureus 市中のenterococcusだったんですね。
ところが今回からはS.pneumoniaeやS.pyogenesを除く全てのstreptococcus属、などが追加されました。
G群溶連菌の蜂窩織炎としても、2セット血液培養陽性で38℃以上の熱があればpossible IEということになります。
で、そういった症例がIEでないことを示すには、
・菌血症が速やかに消失すること
・心臓の画像検査でIEの画像所見がないこと
が必要になってしまいます。
Streptococcus dysgalactiae(G群溶連菌)はIEの典型的な菌から外すべき?
個人的にはフォーカスの分かっている、とくに蜂窩織炎がフォーカスの溶連菌に対して血液培養フォローをしたことはほとんどありません。たぶん。
感覚的にはStreptococcus dysgalactiaeのIE、特に蜂窩織炎からIEになるケースは相当珍しいと感じています。
で、過去の菌血症のレジストリをDuke-ISCVD2023の基準に再分類した研究を教えてもらいました。
Performance of the 2023 Duke-International Society of Cardiovascular Infectious Diseases Diagnostic Criteria for Infective Endocarditis in Relation to the Modified Duke Criteria and to Clinical Management-Reanalysis of Retrospective Bacteremia Cohorts
(Clinical Infectious Diseases 2024;78(4):956–63)
スウェーデンの4050の菌血症エピソード(Staphylococcus aureus, Staphylococcus lugdunensis, non–β-hemolytic streptococci, Streptococcus-like bacteria, Streptococcus dysgalactiae, Enterococcus faecalis, and HACEK)を、2000 年の修正Duke と Duke-ISCVID で比較
上図の通りで、修正DukeでRejectedに分類されたもののうち、475例がDuke-ISCVIDではPossibleに分類され、修正DukeでPossibleに分類されたもののうち、Duke-ISCVIDでは13例がDefiniteに分類された。
Duke-ISCVIDを用いるとPossibleがすごく増えちゃうわけですね。
とくにRejected→Possibleに影響しているのは、S.dysgalactiaeとE.faecalis
S.dysgalactiaeの症例の多くは蜂窩織炎+発熱であったとのこと。
また、S.dysgalactiaeのPossible IEで実際にIEとして治療された症例は0だった。(Supplementary Table 1)
さらにDuke-ISCVIDでS.dysgalactiaeがIEリスクと示された根拠になった論文は、デンマークのナショナルレジストリの中でIEの病名がついている人で、最低2週間入院していた人を対象にしているため、病名の誤分類の可能性があると。
(Circulation.2020 Aug 25;142:720-30.)
⇀著者たちはS.dysgalactiaeは「IEに矛盾しない菌」から外すべきでは、と主張。
直感的には受け入れやすい主張で、S.dysgalactiaeのPossible IEは増えるけど、だれもIEとして治療されていなかった、ということになります。
もちろん細かな症例フォローがなされているかは不明ですが。
まとめ
Streptococcus dysgalactiaeはDuke-ISCVIDで格上げになったものの、実臨床ではIEの深追い(ルーチンの血液培養陰性確認、心エコー)は不要かもしれない。
僕がもともとこの意見なので、バイアスありありの記事です。
ではまた。
結論:昔、dysgalactiaeはGが入っているからG群連鎖球菌っておぼえたけど、pyogenesにもagalactiaeにもGが入ってた。