2024/07/15

投稿日 2024/07/15

S. dysgalactiae(G群溶連菌)はIEの典型的な菌から外すべき?

スミヨシです。


感染性心内膜炎(IE)は、持続菌血症から存在を疑うことがあるし、その菌血症の解除が重要です。

つまり、IEの診断、治療にフォローの血液培養がかかせません。

IEと確定している症例はあまり困らないのですが、問題はあまねくGPC菌血症に血液培養フォローが必要なのかという点です。


他院の先生から、


たとえばG群溶連菌の蜂窩織炎まで血液培養フォローが必要なのか


ということを聞かれたので調べてみました。

(というより師匠から教えてもらいました)


Duke-ISCVID2023

そもそもこの議論が生まれた背景に、Dukeのupdateがあります。

Duke-ISCVID 2023では、大基準の一つが、

・IEに矛盾しない菌が血液培養から2セット以上

となっています。


で、このIEに矛盾しない菌、以前はStreptococcus viridans, Streptococcus bovis HACEK staphylococcus aureus 市中のenterococcusだったんですね。

ところが今回からはS.pneumoniaeやS.pyogenesを除く全てのstreptococcus属、などが追加されました。

G群溶連菌の蜂窩織炎としても、2セット血液培養陽性で38℃以上の熱があればpossible IEということになります。


で、そういった症例がIEでないことを示すには、

・菌血症が速やかに消失すること

・心臓の画像検査でIEの画像所見がないこと

が必要になってしまいます。


Streptococcus dysgalactiae(G群溶連菌)はIEの典型的な菌から外すべき?

個人的にはフォーカスの分かっている、とくに蜂窩織炎がフォーカスの溶連菌に対して血液培養フォローをしたことはほとんどありません。たぶん。

感覚的にはStreptococcus dysgalactiaeのIE、特に蜂窩織炎からIEになるケースは相当珍しいと感じています。


で、過去の菌血症のレジストリをDuke-ISCVD2023の基準に再分類した研究を教えてもらいました。


Performance of the 2023 Duke-International Society of Cardiovascular Infectious Diseases Diagnostic Criteria for Infective Endocarditis in Relation to the Modified Duke Criteria and to Clinical Management-Reanalysis of Retrospective Bacteremia Cohorts

Clinical Infectious Diseases 2024;78(4):956–63


スウェーデンの4050の菌血症エピソードStaphylococcus aureus, Staphylococcus lugdunensis, non–β-hemolytic streptococci, Streptococcus-like bacteria, Streptococcus dysgalactiae, Enterococcus faecalis, and HACEK)を、2000 年の修正Duke と Duke-ISCVID で比較



上図の通りで、修正DukeでRejectedに分類されたもののうち、475例がDuke-ISCVIDではPossibleに分類され、修正DukeでPossibleに分類されたもののうち、Duke-ISCVIDでは13例がDefiniteに分類された。

Duke-ISCVIDを用いるとPossibleがすごく増えちゃうわけですね。



とくにRejected→Possibleに影響しているのは、S.dysgalactiaeとE.faecalis

S.dysgalactiaeの症例の多くは蜂窩織炎+発熱であったとのこと。

また、S.dysgalactiaeのPossible IEで実際にIEとして治療された症例は0だった。(Supplementary Table 1)

さらにDuke-ISCVIDでS.dysgalactiaeがIEリスクと示された根拠になった論文は、デンマークのナショナルレジストリの中でIEの病名がついている人で、最低2週間入院していた人を対象にしているため、病名の誤分類の可能性があると。

(Circulation.2020 Aug 25;142:720-30.)


⇀著者たちはS.dysgalactiaeは「IEに矛盾しない菌」から外すべきでは、と主張。


直感的には受け入れやすい主張で、S.dysgalactiaeのPossible IEは増えるけど、だれもIEとして治療されていなかった、ということになります。

もちろん細かな症例フォローがなされているかは不明ですが。


まとめ

Streptococcus dysgalactiaeはDuke-ISCVIDで格上げになったものの、実臨床ではIEの深追い(ルーチンの血液培養陰性確認、心エコー)は不要かもしれない。


僕がもともとこの意見なので、バイアスありありの記事です。

ではまた。


結論:昔、dysgalactiaeはGが入っているからG群連鎖球菌っておぼえたけど、pyogenesにもagalactiaeにもGが入ってた。