スミヨシです。
以前、知り合いの産婦人科医から連絡があって以下のようなことを相談されました。
※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。
------------------------------------------
30歳女性
妊娠25週の妊婦
X-2 同居の子どもが発熱+咽頭痛 迅速検査からA群溶連菌咽頭炎の診断となり治療
X 定期受診の際に、自身も治療すべきか相談
本人は無症状
子どもも解熱している。
------------------------------------------
これはもう困ったもんですよ。
言うまでもなく、妊婦のGAS感染は激烈な経過をたどるパターンがありますので、注意しなければならないです。
一方で今治療を行うとそれを防ぐことができるのかと言われるとなんとも。。
そういうわけで調べてみました。
家族が溶連菌感染した妊婦の対応
UpToDate®の「Pregnancy-related group A streptococcal infection」
それとPregnancy-Related Group A Streptococcal Infections: Temporal Relationships Between Bacterial Acquisition, Infection Onset, Clinical Findings, and Outcome
(Clin Infect Dis. 2013;57:870-6.)
を見てみました。
ですが、無症状での予防的治療に関しては載っていませんでした。
ただし上記の論文には、以下記載ありでした。
"Given the incidence of reported antecedent sore throat among women in our series (55.6% in the third trimester and 28.6% in both the 5–8 day and >8-day groups), pharyngeal screening for GAS may be warranted, particularly in those women whose family members include young children, especially those with active pharyngitis or upper respiratory illness."
→本研究で妊娠第3期の女性の55.6%、5-8日目および8日以上のグループではそれぞれ28.6%が、喉の痛みが生じたことをふまえると、特に、家族に若い子供がいる女性、特に現に咽頭炎や上気道感染症を患っている子供がいる場合には、GAS(A群β溶血性連鎖球菌)の咽頭スクリーニングが推奨されるかもしれない。
一方、これは妊婦では無いですが、別の論文では
"Asymptomatic carriage of GAS has been frequently noted among household contacts of patients with GAS pharyngitis. Up to one-third of households include individual(s) who will develop symptomatic GAS pharyngitis that warrants diagnostic testing and treatment. In studies examining the role of antibiotic prophylaxis of household contacts of patients with GASpharyngitis, penicillin prophylaxis has not been shown to reduce the incidence of subsequent GAS pharyngitis."
(Clin Infect Dis. 2012;55:1279-82. )
という記載がありました。
要するに予防投与を行っても発症率は変わらないようです。
少なくとも妊娠中or産褥婦の咽頭炎ないしは発熱に対して病歴次第で閾値低めに溶連菌のスクリーニングをしてもいいかもなと思いました。
無症状のうちに検査、予防治療を行うべき推奨はなさそうです。
妊婦の溶連菌検査は閾値を下げるべき?
国内における、妊婦に対するGASの検査閾値を低めにする意見として、母体安全への提言2019 Vol.10(PDF. 妊産婦死亡症例検討評価委員会 日本産婦人科医会 )では、
「Centorスコアに妊婦で1点をふやすべき」
という提言がなされています。
しかしそもそも咽頭痛がないorその前に激烈な経過になる症例があるのでそこをどうするかは難しいですね。
条件がゆるせば、咽頭炎が無い発熱の際にも溶連菌も選択肢かもしれません。
まあ、産褥婦ならさておき、妊婦をどこまで侵襲性GAS感染のリスクとするかというのもありますが、医療者も患者も症状に鋭敏になったほうがいいとは思っています。
まとめ
・妊婦において少なくとも無症状での検査・治療の利益は不明
・閾値を下げて検査を行うことは意識してよいかも。
ちなみのこの相談には、子どもの発症も少し前だし、本人は無症状なので、経過観察および咽頭痛や発熱があったら速やかに内科に受診する、という説明をしてみてはと提案しました。(実際にはとくに何もなく経過したようです)。
ではまた。
結論:GBSやGGSはジービーエスやジージーエスと読むのにGASはガスと読むのはちょっとデリカシーが無いんじゃないかと思う。