2024/04/15

投稿日 2024/04/15

PIPC/TAZによる低カリウム血症の頻度は?

スミヨシです。


観測範囲に偏りがあるかもしれませんが、XでPIPC/TAZによる低K血症が少し話題になっていました。

正直、あまり認識していなかったので調べてみました。


PIPC/TAZによる低カリウム血症の機序は?

そもそもペニシリン製剤が低K血症のリスクとされる。

(遠位?)尿細管で陰イオンとして働き、負の電位差が生じ、Na-Kの交換が生じ、K排泄促進が起きるとのこと。

(Br Med J.1968;4(5630):550-2.)


でも、他のペニシリン製剤ではあまり低Kの報告はないし、添付文書をみても頻度不明とかだったりしますね。

PIPC/TAZに特異的な理由はよくわかりませんでした。


PIPC/TAZによる低カリウム血症の頻度は?

そもそも話題になった内容として、日本の添付文書に記載があるようです。


(ヤクチエ添付文書より)

4.0%とのこと!

2020年10月6日からこの記載が増えたようです。

曰く、以前に数例報告があり、少なくとも3件はPIPC/TAZによる低K血症を否定できない結果となった、とのこと。

(参考PDFですいません。https://www.pmda.go.jp/files/000236937.pdf)

4%の由来はよくわかりませんでした。


UpToDate®やサンフォード、johns hopkinsとかにはあんまり記載がなさそうでした。


頻度を調べた論文がいくつかあるので調べてみました。


Incidence and Risk Factors of Hypokalemia in Tazobactam/Piperacillin-administered Patients

YAKUGAKU ZASSHI.2019;139.1591-600

18歳以上のPIPC/TAZ 使用の420人

もともと低K血症、Kを低下する薬剤やK製剤を併用している患者、透析患者などは除外。

患者の症状は不明。つまり「下痢」などは除外していない。

⇀104人(24.8%)が低K(<3.6)
さらにそのうち27人(全体の6.4%)はK<3.0

年齢が有意なリスク
Doseをあげても頻度はあがっていそうですが、Daily Dosage/CLcrは多変量解析では有意差なし


この数字だけみると相当多く見えてしまいますね。


Incidence and Determinants of Piperacillin/Tazobactam-Associated Hypokalemia: A Retrospective Study

18歳以上のPIPC/TAZ 使用の713人
もともとKの異常がある人や、Kに関連する可能性のある薬剤服用者、Kに関連する可能性のある疾患、症状がある患者は除外
後ろ向き研究であり、投与後に生じた症状(下痢など)でも除外されている可能性はあり

⇀99人(13.9%)が低K(<3.5)

さらにそのうち33人(全体の4.6%)はK≤3.0


女性、高齢者、投与量、投与期間がリスク

低Kが生じるのは中央値4日

こちらもそれなりの数がいそうです。


Fosfomycin for Injection (ZTI-01) Versus Piperacillin-tazobactam for the Treatment of Complicated Urinary Tract Infection Including Acute Pyelonephritis: ZEUS, A Phase 2/3 Randomized Trial

Clin Infect Dis.2019;69:2045-56.

Complicated UTIに対するFosfomycin vs PIPC/TAZ

低カリウムを検出する研究ではないので注意。


⇀低Kは 30.6% vs 12.6%

TEAEと見なされたのは 6.4% vs 1.3%


この研究ではTAZ/PIPC関連とみなされたのは1.3%と、他の研究に比べると少なめです。


Electrolyte Disorders Associated with Piperacillin/Tazobactam: A Pharmacovigilance Study Using the FAERS Database

Antibiotics (Basel).2023;12(2):240. 

FAERS(FDAの有害事象)のデータベースでのPIPC/TAZにおける低Kはproportional reporting ratioとreporting odds ratioが2.61であった。

他のペニシリン製剤も多く、 nafcillin, flucloxacillin, TZP, and/or oxacillinと続く


PIPC/TAZの低Kの報告が多いようですが他のペニシリンも多いそうです。

なお、影響は不明ですが、先述の論文(Incidence and Determinants of Piperacillin/Tazobactam-Associated Hypokalemia: A Retrospective Study)と同じ筆者で同じ出版社です。


思ったこと

・TAZ/PIPCを投与されている群はそもそも低Kになりやすいのでは?

一般的にはTAZ/PIPCはスペクトラムの広い抗菌薬なので、より重症度の高い感染症で使用されることが多いと思います。

年齢もリスクになっていますが、そもそも高齢者や重症患者は感染症罹患時にintakeの問題などで低カリウムになりやすい、という想像をしてしまいます。

抗菌薬関連下痢やCDIによる低Kの影響も気になります。

⇀気になるのは、同様な状況で使われやすいMEPMやCFPMではあまりこの議論の報告があまりなさそうな点でしょうか。


・抗菌薬に含まれるNa負荷→RAA亢進による低K血症??

これも仮説としてはありそうです。ただ、同じようなNaの投与量になりそうなABPC/SBTではあまり低Kの報告はありません。


・そもそもこれまでの報告は妥当?

本質的にはPIPC/TAZ vs プラセボ群とか比較しないといろいろな因子を除外できないかもしれません。

もしくは、重症度が同様の患者群でのMEPM vs PIPC/TAZとか軽症群でのABPC/SBT vs PIPC/TAZとかで他の抗菌薬と比較してPIPC/TAZだけが低Kになりやすい、と論ずるか?


まとめ

PIPC/TAZは何らかの理由で低K血症のリスクかもしれない。

ただ、他の抗菌薬や他の因子がそもそも検討されていない可能性が十分にある。

PIPC/TAZだけが報告が多い理由はよくわからないし、複合的な要素もあるかもしれない。

報告されている頻度をリアルワールドにどう当てはめるかは難しいと思いました。


あと、もし低K血症のリスクとして、投与後4日とかで起きる(≒投与中に起こる)のであれば、通常のスパンで採血していれば 意識していないor知らなくても低Kを見逃す可能性は低いかもしれません。
どうせ気づくからOKというと元も子もないですが、自分の意見は、現段階ではあまり気にせずでいいかな、と思いました。

ではまた。

結論:PIPC/TAZか、TAZ/PIPCかは、もはや宗教