前回、術前スクリーニング採血で梅毒が出たときの対応を考えました。
術前スクリーニング採血で梅毒陽性の時にすること
でも福知山にいったときに、術前スクリーニング採血でたまたま見つけた梅毒陽性の相談が結構皆困っていたなあ、と思いました。
今回も梅毒のことで。
以前、あるカンファで「treatable dementia」が取り上げられていました。
その時の勉強スライドで
「病歴に応じて梅毒やエイズウイルスを測定」
と記載がありました。
まあ、治療可能な認知症の鑑別の一つに神経梅毒があるので検査をすること自体には賛成です。
しかし医師としてエイズウイルスとの記載に猛烈な怒りを感じたとともに、traetable dementiaの人の梅毒の病歴ってなんやねん!と思い、プレゼンターに聞きました。
すると返事は
「性交渉歴ですかね」
とのこと。
いやいや、まじか。
高齢者の性交渉歴、いったいいつのものを聞くというのか。。
なんかそのスライドの参考文献もいかがわしい参考書からだったので、もうこれは自分で調べてみるか、と思い調べてみました。
どんな認知症患者に対して梅毒を検査するか
神経梅毒
ひとまずは神経梅毒から。
有病率:人口10万人あたり0.47-2.1例
症状:
早期は髄膜炎症状
後期の進行麻痺は前頭側頭型認知症を呈する
脊髄癆まで進行すると歩行失調など
→脊髄癆の無い後期神経梅毒を通常の認知症と鑑別するのは難しい。
日本神経学会 認知症ガイドライン
認知症ガイドラインの梅毒の検査についてみてみました。
「血清梅毒検査とHIV検査は,病歴上,診断が疑われる場合に実施する」
「多彩な症状を示すが特に神経梅毒に特徴的な症状はない.そのため,認知症の鑑別として神経梅毒は常にあげられる」
「詳細は『性感染症診断・治療ガイドライン(http://jssti.umin.jp/pdf/guideline-2011.pdf)を参照されたい。」
病歴上疑ったときに実施するといいつつ、鑑別に常にあげられるとか言っちゃうのはダブルスタンダードでは。。
また、診断が疑われたときに検査をする、の元文献にはそのような記載は見つけられませんでした。
(J Neurol Neurosurg Psychiatry.2014;85:1426-34)
一応性感染症ガイドラインも調べましたがやはりこのあたりの記載は見つけられませんでした。
米国神経学会ガイドライン
(Neurology.2001;56:1143-53. )
以下のような記載でした。
「梅毒の多い地域は、南部と中西部の一部の地域である。」
「これらの高発生地域を除いて、検査前確率の高くない認知症患者にスクリーニングすることは不十分であるように思われる。」
流行地域以外でなければルーチンでなくてもいい?
日本では都市部の梅毒が多いかもしれませんが、
急速進行性認知症ではどうか?
(Neurol Clin Pract.2012;2:187-200. )
数週から数か月にわたり進行した認知機能低下をrapidly progressive dementia (RPD)と呼ぶ
17-27%が治療可能な疾患である
ギリシャのtertiary referral centerでのRPD
(Alzheimer Dis Assoc Disord.2009;23:337-46.)
RPDのスクリーニングでRPRやHIVは検査すべき
(Continuum (Minneap Minn). 2016 ;22:510-37.)
神経梅毒の除外無しにRPDの検査は終了できない
(Neurol Clin.2007;25:783-807)
RPDなら梅毒の検査を、という論調はいくつか見受けられました。
逆は見つからず。
まとめ
認知症全員にルーチンでは必要ないのかもしれない
ただ、急速進行性認知症の患者には検査した方がいいかも。
まあ断定はできませんが。。
なんでも見つけて治療したらいい、なんて乱暴なことはせずにある程度症例がしぼれるといいかもしれません。
個人的には70歳前半で認知症を起こしている患者とかが肺炎で入院したりして受け持った時には検査してます。
あと、例えば札幌は60年前までは遊郭があったりしましたし、パートナーがどうとか、昔そういう場所で働いていたか、とか問診では不明でしょうから、札幌のときは割と検査していました。
福知山では全然梅毒をお目にかかりませんでしたね(1年しかいませんでしたが)。
地域特性もあるのかもしれません。
むずかしい。
ではまた。
結論:札幌で働くなら、薄野遊郭の歴史はぜひとも学ぶべき。