2022/01/21

投稿日 2022/01/21

【症例】65歳男性 片目が急に見えなくなった

スミヨシです。

皆さんは医学をたしなむ中で、立ち尽くしたことはありますでしょうか?


私にはあります。

研修医の時の当直中に来た患者様に対して、意味不明で立ち尽くした記憶があります。

「片目が急に見えなくなった」

という主訴の方です。
何時何分、事細かに視力が消えた瞬間を覚えていて、そのうえで麻痺など無し。



・・うわさには聞いていました。
非眼科医が診ることの無いはずの、sudden onsetな視力消失・・


これはもう、Central retinal artery occlusionですね。
網膜中心動脈閉塞症です。

この日は運悪く眼科対応ができない日で、転院していただきました。
当直の先生が眼球マッサージしてて、すげー、なんて思っていました。

多分二度と対応することはないだろうと願っていますが、当時Wordにまとめたのが出てきたので、ブログにしておこうかと思います。
あくまで非眼科医のためのまとめです。


Central retinal artery occlusion(網膜中心動脈閉塞症)

いわゆる「眼の脳卒中」
sudden onsetの痛みの無い単眼視力喪失をきたす。
発症 1人/10万人ながら、視力予後は不良
(Am J Ophthalmol. 1999;128(6):733. )


診断

眼底鏡でのcherry red spot、網膜浮腫、網膜動脈の分節的な血流低下
(box-carring)がある。
眼底三次元画像解析(OCT)や蛍光眼底造影検査も診断をより確かにする。
(Neurol Clin. 2017;35(1):83-100.)

これを非眼科医がする時点で無理があると思うので、症状聞いた時点で眼科医呼ぶのでいいと思います。
他にやるとしてもせいぜい脳卒中の除外ですかね?

治療

古典的には、
 ①血栓除去(眼球マッサージ、t-PAやヘパリンの血栓溶解療法、レーザー治療)
 ②血流上昇(ニトログリセリンや95%0₂+5%CO₂吸入、高圧酸素療法)
 ③眼圧低下(マンニトール、アセタゾラミド、前房切開)
となるかと思うが、どれも明確に視力改善するものなし!

CRAOの診断された患者のうち、4%が1年以内に脳卒中を経験する。
アスピリン使用群、非使用群で発生率差なし。
(BMJ Open. 2019; 9(2): e025455.)

・・なかなか成す術なしですね。
血行再建術が有効かどうかはわかりませんが議論する余地がある治療はそれくらいかもしれません。


というわけで、もう非眼科医のできることないじゃん!状態ですが、知っておいていいこともいくつかありそうです。


網膜動脈閉塞症の人の合併症など評価

①頸動脈評価
基本的には網膜動脈閉塞症の患者は頸動脈の動脈硬化が多い、で覚えてよいです。
まあ、救急や内科外来で急いではしないでしょうけど。。

②心機能評価
心原性塞栓かも、という観点での評価が必要です。

③巨細胞性動脈炎の除外
これも急性の失明の原因になりうります。こちらはいち早くステロイドを投与すべき病態なので、炎症反応など確認必要ですね。

④凝固

頸動脈狭窄なし、心原性も否定された患者の中に一定数、血栓性素因をもつ者がいるので、検査を検討するべき(プロトロンビン遺伝子変異、プロテインC/S欠乏、抗カルジオリピン抗体など)。
(Eye (Lond). 2001;15:511-4. )

まあ、これら全部含めても、いち早く眼科医に相談、でいいと思いますが。。

後日、眼科の先生に聞いたら、すぐ連絡くれれば対応します、とのことでした。
眼球マッサージも親指で聞いたら、親指で10秒押して、10秒離すとかだけど、まあ、それよりも眼科呼んでと言われました。
施設間で差はあると思いますが、餅は餅屋、ということで。。


ではまた。

結論:将来、偉人になったらスミヨシクイズを作ると思うんですが、私が初めてお金を出して買った論文は?の答えは、"Update on the Management of Central Retinal Artery Occlusion"ですので、覚えておいてください。