2022/11/18

投稿日 2022/11/18

【症例】75歳男性 下肢のかゆみ、体重減少


スミヨシです。

ちょっと科内で話題になった症例がありまして、それについて調べていた時に、見つけたので読んでみたシリーズです。

NEJMのClinical Problem-Solvingの"Copycat"より。


CLINICAL PROBLEM-SOLVINGNOV 04, 2021

Copycat


ものまねとかまねっこと訳せばよいでしょうか。

※一部省略、変更あり

【症例】75歳男性
【主訴】下肢のかゆみ、発疹
【病歴】
2か月前から7kgの体重減少
4日前から下腿にかゆみのある発疹
他の随伴症状なし
【既往歴】
C型肝炎ウイルス感染(未治療)
【社会歴】
サンフランシスコのホームレスシェルターに在住
先月までニューメキシコ州で猫を6匹飼育
コカイン使用歴あり
喫煙:never
飲酒:never

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この時点での鑑別は?
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自分だったらとりあえず血液培養とるのと、悪性腫瘍をどこまで考えるかなと思ってみてました。

原文では
・倦怠感および体重減少

・C型肝炎があるので触知可能な紫斑であれば、混合型クリオグロブリン血症
Bartonella henselaeによる猫ひっかき病、心内膜炎
・発疹チフスの初期症状
Bartonella quintananiよる培養陰性心内膜炎
Coxiella burnetiiによるQ熱など(ニューメキシコにはいる)

思いつかない疾患が多いですね。。
悪性腫瘍にしてはプレゼンが急性か。。
クリオグロブリン血症とか、言われるとハッとするのですが。。


次にすすみます。

大腿部の皮疹



【vital sign】
意識清明 BT 36.7℃ BP 115/54 HR 61 RR18 SpO₂ 99%
【身体所見】
皮疹は上記のとおり。触知可能で、圧迫しても消退しない紫斑。
口腔:正常
リンパ節腫脹なし
心音:胸骨右上縁で3/6の収縮期雑音
呼吸音:正常
腹部:圧痛なし
筋肉や関節、神経学的な異常はなし
【採血】
WBC 4500 Hb 11.6 MCV102 PLT 15.3万
BUN 51 Cre 2.4 AST 96 ALT 67 T-Bil 1.9 血沈89

抗核抗体陰性 ANCA陰性 ASO陰性 RA 207IU/ml

HCVウイルス量:160万IU/ml HIV抗体陰性 HBs抗原陰性 
C3 42mg/dl(正常71-159) C4 11mg/dl(正常13-30)
抗Ro-52抗体 57IU/ml(正常 40未満)
血清クリオグロブリン:陰性
【尿沈査】
RBC:50-100/1視野  WBC:5-10/1視野
尿蛋白/Cre比:35(正常:<8)
コカイン陽性
【画像】
胸部XR:正常
腎エコー:水腎症なし。サイズ正常。


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この時点での鑑別は?
検査は?
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自分はここいらで少し諦め気味でした。。
多分腎生検から行くのがいいのかなあ、なんて思いますが。この時点でAKIや血管炎が得意な先生にバトンパスしたいな、という気持ちが強くなりますね。
こういう疾患は自分ではなかなか診られないかも、なんて思ってしまいます。



原文は腎・皮膚生検と経胸壁心エコーを行っています。

経胸壁心エコー:EF 65-70%、軽度のA弁肥厚、中等度のAR

腎生検:免疫複合体を介した糸球体腎炎。
蛍光抗体法では”IgG, IgM, IgA, C3, C1q, fibrinogen, kappa, and lambda, with a predominance of IgA”

血液培養は陰性


⇀C型肝炎に伴うクリオグロブリン血症としてステロイドパルスと、Sofosbuvir–velpatasvir(エプクルーサ®)を開始。
2週間後にはリツキシマブも開始。

発疹は大幅に改善したが倦怠感が悪化。
Creも一度1.7まで改善したが、再度3.4まで増悪。


診断は?
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長い前振りでしたが、実際次の手は困るのだと思います。

解説をみると、この患者が改善しているところをみると、C型肝炎の治療やステロイドに反応している(≒C型肝炎関連のクリオグロブリン血症ぽい)ことは確かだが、別の原因をさがしてみましょうとの記載。


オチとしては経食道エコーでA弁に疣贅あり
B. henselae IgG 陽性 (1:262,144) IgM陰性
B. quintana IgG 陽性 (1:512 ) IgM陰性


というわけで、Bartonella henselaeによる血液培養陰性感染性心内膜炎でした。。

猫が原因でしょうね。

メッセージとしてはheuristics and confirmation bias、つまり経験則と確証バイアスが悪さした、とのことでした。

・未治療のC型肝炎患者の白血球破砕性血管炎、糸球体腎炎、補体低値、RA高値などがあり、経験則的アプローチでクリオグロブリン血症の診断になった。
・経胸壁心エコーで疣贅がないことを過大評価、A弁の異常を過小評価してしまった。

実際培養陰性感染性心内膜炎ってこういうプレゼンでくるとやっかいですね。
あとコカインとかの話も余計だし困った症例です。


クリオグロブリン血症とかバルトネラとかあまり得意じゃないのでそのうちこのあたりをしらべてみます。

ではまた。


結論:タイトルがオシャレなのでいつかパクってGIMカンファに出したいと思います。