2022/04/24

投稿日 2022/04/24

【症例】65歳男性 急な記憶障害

スミヨシです。


救急外来やってると、立ち尽くすシリーズってあると思うんですよ。

▼重症すぎてどうしたらいいか分からなくて立ち尽くす

▼医学的に何をどうして、誰に聞いたらいいかも分からなくて立ち尽くす


大きくこの2パターンだと思います。


今回は、後者の話題で。

昔立ち尽くした症例に、最近また出くわして対応できたので、紹介します。



※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。

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生来健康な65歳男性

朝はなんともなかったが、仕事中に記憶障害が生じたことに周りが気付いた。
自分で朝行った仕事を、誰がやったか不思議がっている。
おかしいと思い会社の部下が病院に連れてきた。
病歴を本人に聞いても会話がかみ合わず、幾度も同じ質問をしてくる。
神経症状や麻痺なし



対応は?
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研修医1年目のときの夜間に同期があたった症例だったと思います。
なんか頭部CTとMRIとって何もないけど、脳外科の先生呼んでいいの?なんて説明するの、っていういやな空気が流れた症例でしたね。。

次の日脳外科外来カルテでは元に戻っていて終診となっていました。


この症例の症状を言語化すると、
・急性発症
・逆向性健忘(過去の記憶の消失)
・前向性健忘(記憶ができない)
・他症状の随伴なし
・一過性で症状改善

てなところでしょうか。


結果論にはなりますが、この症例は一過性全健忘でした。


一過性全健忘:Transient global amnesia(TGA)

(Mayo Clin Proc.2015;90:264-72. )
(Lancet Neurol. 2010;9:205-14. )
(UpToDate®:Transient global amnesia)

急性発症の前向性健忘、時に逆行性健忘を伴うで、24時間以内に改善する。
発生率は5.2-10/10万人・年
多くは50歳以上でそれだけに絞ると、23.5-32/10万人・年
それ以下は稀。


症状

突然発症の前向性健忘と逆行性健忘
「何時ですか?」「なぜここにいるのか?」などという同じ質問を繰り返す。
原則、健忘以外の神経学的所見はなし
発作中も運転や料理などが可能
頭痛、嘔気、めまいなどの症状を伴うこともある

危険因子・誘因因子

高脂血症、脳梗塞、虚血性心疾患の既往が対照群より多く、これらは危険因子かもしれない
(Eur Neurol.2014;71(1-2):19-24.)

誘因としては、精神的・身体的ストレス、水への接触、疼痛、性交渉など
また、Valsalva様のいきむ動作が誘因になることが多い。


診断基準

(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1990; 53: 834-843)

①発作が目撃され、観察者から発作中の情報が得られる。
②明確な前向性健忘がある。
③意識混濁・自我の喪失を伴わず、健忘のみ
④発作中、発作後の神経学的局所徴候を伴わない
⑤てんかんっぽくない
⑥24時間以内に改善
⑦直近の外傷や活動性てんかんを除外

逆行性健忘の程度は診断にふくまれない。

検査

頭部MRIの海馬高信号が有名
血流低下に脆弱な海馬CA1領域の障害・細胞性浮腫がMRIで検出らしいです。
発症直後よりも、24-72時間後に出やすい

一過性全健忘のMRI所見


(J Clin Neurol. 2008;4:59-66)


TGAの鑑別疾患として、後方循環系の脳虚血や中毒、副作用、複雑部分発作、一過性てんかん性健忘(TEA)、解離性障害、低血糖、脳震盪など
⇀これらをどこまで除外するかになるので、頭部MRIはとってもよいかも。

治療

経過観察での改善


まとめ

症例は、家族の不安も強く、一泊経過観察入院としました。
次の日には問題なく、後日外来受診しましたがそれも問題ありませんでした。
この疾患を知る知らないで家族への説明が大きく変わると思います。
心配がいらない旨をしっかり伝えましょう。
ではまた。


結論:久々に自分のモバゲーとかmixiの日記を見ると、一過性全健忘にかかりたくなる。