2022/04/09

投稿日 2022/04/09

【症例】80歳女性 入院後歯磨きで出血するようになった

スミヨシです。


多分気づいてないけど、実臨床ではよくあるんだろうなあ、ということが先日ありました。



※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。


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80歳女性

基礎疾患・定期内服薬の無い患者

X日 尿路感染で入院 セフメタゾール開始
X+3日 ESBL産生大腸菌が血液・尿培養から検出。
セフメタゾールでこのまま治療していく方針に。

X+5日 歯磨きで結構出血します、と看護師から相談
一応血液検査すると、PT-INR 3.0、APTT 80秒
入院時は凝固は正常。
感染は落ち着いており、退院調整を始めたところ

さて、どうする?
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ひとまずはDICかどうか考えることにはなるとは思います。

この症例は血小板減少とかなく、状態も落ち着いているし違うかな、と。


そもそもこのフェーズでPTもAPTTも過延長となると薬剤性だろって感じですよね。

となると抗菌薬による凝固異常が疑われるところです。


セフメタゾール、凝固異常と言われればビタミンK欠乏ですね。


セフメタゾールによるビタミンK欠乏

簡単にまとめると

①NMTT基によるビタミンK還元サイクル阻害

②ビタミンK2産生腸内細菌叢減少

の機序でビタミンK欠乏⇀凝固異常をきたす。


ビタミンKと凝固因子

ビタミンKはビタミンK還元サイクルの作用でビタミンK依存性凝固因子(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)の産生にかかわっている。

ワーファリンはビタミンK還元サイクルを阻害して抗凝固作用を得ている。


N-methyl tetrazole thiol基(NMTT基)とビタミンK

セフメタゾールやセフォペラゾンはN-methyl tetrazole thiol基(NMTT基)をもつことで安定性向上を得ている。

このNMTT基がビタミンK還元サイクルを阻害して、抗凝固作用を呈する

(J Clin Pharmacol. 1988;28(1):88. )

methyl-thiadiazole thiol基 (MTDT基)をもつセファゾリンでも同様のことが起こりうる。


ビタミンK2産生腸内細菌減少

結腸などにコロニーをつくる腸内細菌はビタミンK2を産生するが、抗菌薬により細菌が減少し、ビタミンK欠乏をきたす。

(Lancet.1980;1(8158):39-40. )


診断

PT、APTTの延長と、PIVKAⅡの増加など

ビタミンKの直接測定は保険外(ですよね?検査の人に言われました。。)


治療

ケイツー® 10mg iv

もしくはケイツーカプセル®(添付文書では内服は1回10mg 1日2回)

改善なければ48-72時間で再投与


私見だが、出血イベントのある場合には、ワーファリンによるPT過延長と同様の対応でもよいかもしれない

(Chest.2012;141:e152S-e184S.)


まとめ

そういうわけでこの患者は抗菌薬をミノマイシン内服に切り替え、ビタミンK投与したところ、2日後にはPT、APTT改善しておりました。

セフメタゾールはESBL産生や腹腔内感染で使いやすいですが、PT・APTTにも気をつけたいですね。


ではまた。


結論:ビタミンK依存凝固因子といえば、肉納豆(2、9、7、10)で覚えるが、同僚が病院で肉納豆を食べてて、この料理が実在することを知った。