男性の尿路感染症の中に、急性細菌性前立腺炎があります。
前立腺は抗菌薬移行性が悪く、治療期間も長いため、鑑別は重要です。
札幌の師匠はかつて私にこう言いました。
「男性の尿路感染で、直腸診をしなくてもいいのは2パターン。患者に穴がない場合か、先生に指がない場合」と。
まあ、これは極端にしても、男性の尿路感染は常に「何かおかしい」と考えることが重要だと考えます。
しかしながら、高齢男性のUTIで、実際に急性前立腺炎として対応されていることは少ないと思いますし、ほとんどの場合、うまくいっていると思います。
身体所見は無料だからどんどんしろ、っていうのは個人的に間違いで、身体診察にも程度によって侵襲度の違いがあるはずです。
その点では直腸診はそれなりに侵襲度の高い検査のはず。
どんな人に直腸診すべきか考えてみました。
急性前立腺炎の割合は。。。
まず、男性の尿路感染において急性前立腺炎の占める割合を検索しましたが、どうやらデータがなさそうですね。。
わからないということがわかりました。。
(Am Fam Physician.2016;93:114-20.)
直腸診による悪影響
青木先生のレジデントマニュアルの前立腺炎を読んでみると、
「触診は菌血症を起こす可能性があり,本病態を疑った時点で筆者は泌尿器科にコンサルトする。」
との記載。
ただ、色々探しても、前立腺炎で触診をすると菌血症が増えるかは定かでは無いです。
前立腺マッサージはやめるべき、との推奨はいくつかありました。
( Prim Care. 2010;37:547–563.)
もし画像で診断ついてからははわざわざしなくてもよさそうですかね。
急性前立腺炎の症状や直腸診
急性前立腺炎患者に対する直腸診での圧痛は63%
発熱 80%
尿路症状 72%
-排尿時痛 50%
-頻尿 52%
-排尿障害 30%
-膀胱出口部閉塞 23%
骨盤の痛み 43%
(BMC Infect Dis.2008;8:12. )
圧痛は4割弱で陰性
尿路症状の方が少し感度は良いか。
前立腺炎とPSA
前立腺炎ではPSAの上昇がみられる。
(Eur Urol. 2003;43:702. )
が、前立腺炎の評価には適さない。
(Am Fam Physician.2016;93:114-20.)
上記文献の元文献
(Prim Care. 2010;37:547–563)
(Nat Rev Urol. 2011;8:207–212.)
(Med Clin North Am. 2011;95:75–86.)
まあ、男性の尿路感染でPSAがある程度以上なら前立腺炎かも、なんてのもありますが、使い道は限られるかもしれません。
まとめ
結局どうするの、といわれると困りますね。。
いつ直腸診しろ、という推奨があるわけでは無し。。
というわけで以下私見です。
・下部尿路症状のある男性の尿路感染
・骨盤、肛門周囲など疼痛のある男性の尿路感染
・睾丸に疼痛のある男性(精巣上体炎→前立腺炎を考慮)
・結石や泌尿器科疾患の無い、ADL自立の男性の尿路感染
これらは直腸診する価値があるかも、と思っています。
あまりに若年で外来の場面だと難しいかもしれませんけど。
これでも見逃すときはあるかもしれませんが、何も考えず全例にする/しないよりよほどいいかなあ、とは思っています。
適切な抗菌薬を投与しても改善に乏しいUTIの時も考えると思いますが、その場合には腎膿瘍も疑って画像評価することが多いので、ついでに前立腺膿瘍など無いか見られればいいなあ、と思います。
あと、上記の人が直腸診どうしても嫌ならPSA測るのも考慮ですかね。。
実際には身体所見は自己満足で患者侵襲度が高いかもしれない。
アセスメント変更の決め手ならいいが、
ルーチンで行うつもり
所見に関わらず検査するつもり
もしくはしないつもり
と決めているなら侵襲の高い身体所見もすべきではない、
が私の意見です。
ではまた。
あ、あと今回は慢性前立腺炎の事はあまり考えていないのであしからずでお願いします。
結論:札幌で、前立腺が痛いという主訴で来た若いお兄さんに出会ったときは、なぜそれに気づいたか聞いていろんな世界を感じた。
尿培養から嫌気性菌が検出されたとき考えること
専門医をとらずにふらふら内科をしている私が、医学ガチ勢を目指すブログです。