2022/08/22

投稿日 2022/08/22

ペニシリンGは使いづらすぎるけど、それでも使いたい

スミヨシです。


札幌時代、師匠に言われて、必ず研修医のローテ2か月のうち1回はペニシリンGを使用するよう言われたことがあります。

ペニシリンGってなんか抗菌薬にこだわり抜いた医療をしている感じがあって、自分に刺さっている時期がありました。
「漢のペニシリンG」とかいう言葉に憧れて、今思うと無理に使用していたかもと思います。

もちろん、適応は守っていましたが。



内科ガチブログになる前のわけわからない時期ですらペニシリンG推してましたね。



好きすぎて、m3.comのクイズにまで投稿してしまい無事採用されました。


ただ、一時期、もしかすると今でも、ペニシリンGは使いづらいな、なんて思うこともあります。


ペニシリンGと感染性心内膜炎のアンチシナジー




昔の私のFacebookの投稿です。
宮古島で働いているときにG群溶連菌菌血症を起こした重症蜂窩織炎の高齢者に対して使用したことを覚えています。

わざわざ取り寄せてもらいました。
当時の自分はカッコいい!!なんて思いましたが、これクソダサいっすね。
まず、持っているカード、使用できるカードで勝負すべきでした。

今の自分ならこの症例はABPCで治療しますね。
PCG無いんだから。

この症例、もう一つ苦い思い出があります。
この患者、IEだったかは微妙ですが、心不全増悪したのを覚えています。

ペニシリンGは心不全や腎不全に使いづらいと思っています。

①ペニシリンGにはカリウムが含まれる。


ペニシリンGは100万単位あたり1.53mEqのカリウムが含まれます。
病名にもよりますが1200-2400万単位/日で使用することが多いでしょうか。
もしかするとグラム染色の閾値が上がって、肺炎球菌性肺炎を救急で診断する機会が減っているかもしれません。
30mEqから40mEqのカリウムが投与されるため、腎不全患者には使いづらいです。

②輸液量が増える。

ペニシリンGの投与は1回200-400万単位を1日6回で使用します。
で、上記カリウムを考慮すると、1回200万単位であれば生食100mlに溶かすことが可能ですが、300万単位だと40mEq/lを超えるカリウム濃度になるので結構厳しいです。
じゃあ、250ml生食使おうかとなると、250×6₌1500mlの輸液を4-6週間することになります。これはIEの治療に対してアンチシナジーだなあ、と感じます。

これを回避するために、1200万単位/500ml輸液に負荷して1日2回投与すればなんとか1000ml/dayの輸液投与で2400万単位にはできますが、じゃあABPCやCTRXで、となってしまいます。

このあたりがアンチシナジーかもな、と感じています。


研修におけるペニシリンGの使用経験の重み

で、5年目から感染症科で働いて、コンサルタントも兼ねるようになると自分がメインで診ていない患者さんにペニシリンGってすすめにくいんですよね。。

ただ、やはりペニシリンGは使用したことがある無しによって感染症科という学問の考え方が変わる薬だと思っています。
幸い、うちのチームは感染症科でありながら主科でベッドを持っていますので、自分の患者さんで適応のある患者さんにはなるべく使用しています。

ペニシリンGの使用経験がなぜ大切かは、レジデントのための感染症マニュアルでは以下のように記載されております。

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 ペニシリン G の臨床的特徴を考えると
● スペクトラムが狭い。このことは,
・菌の同定,感受性に対して注意を払わせる。
(=熱があり CRP が高いからとりあえず抗菌薬を何か,といった悪習を醸造しにくい)
・そのスペクトラムに入る菌,入らない菌を常に意識させる。
● 使用量は一般に多く頻回である。このことは,
・抗菌薬を使う時は断固として十分量使うべきことを学ばせる。
・適正な投与間隔といった薬物動態,薬力学を学ばせる。

● 治療対象は髄膜炎菌や連鎖球菌といった病原性の強い菌が多い。このことは,
・抗菌薬が効いていることと熱や白血球,CRP が正常化することは別であることを学ばせる。
・すなわち抗菌薬が効いていることと臨床的改善に時間差,乖離があることを学ば
せる。
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ペニシリンGで無くても学べることかもしれません。
しかしながら、この言葉は何を隠そう京都のボスの言葉ですので、大切にしようと思っています。

入口は「カッコいい」でいいと思います。
自分が1年目研修医の時に、2年目の先生の指示で肺炎球菌性肺炎に対してペニシリンGを使用しました。
そんなに深い意味は無かったのかもしれませんが、自分は毎日患者を診てハラハラしていたのを覚えています。
結果的に良くなってほっとしましたが、セフトリアキソンを使用していたときよりもしかすると毎日真剣に患者のパラメータを確認していたかもしれません(もちろん全患者にそれができなければいけないのだけど)。

これも引用ですが、ペニシリンは抗菌薬の基本であり、研修医の時に最もスペクトラムの狭いペニシリン G を使う経験はかけがえのないものです。

自分もこの経験をさせていただいたおかげで、自分も研修医にペニシリンGを使用することの大切さと葛藤を少しは教えてあげられているかな、と思っています。

ではまた。


結論:ペニシリンXやペニシリンFもいるらしいぞ!