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2023/08/30

【症例】洪水の後、発熱、筋肉痛、結膜充血を呈する50代男性(再掲)

※この記事は2021年8月に書いた記事を一部修正したものです

スミヨシです。

最近は雨も多く、私の働く福知山でも川の氾濫がおっかない感じでした。
今のところは落ち着いていますが、また台風なども来るでしょうし、警戒はしといたほうがよさそうです。


最近、珍しい症例ですが、洪水の後に増えるある疾患で頭を悩ませることがあったので、勉強がてらまとめようかなと思います。
実際経験した症例は別診断でしたが、いずれ現れたときに備えておくのも大事かと思います。



※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。
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50歳男性 
X-8日 大雨で床上浸水した。水につかりながら、清掃などを行った。
X日 発熱、頭痛、嘔気、筋肉痛、結膜充血があり内科受診。
採血ではAST100U/Lと肝逸脱酵素上昇。CRP 10.0mg/dl
尿検査では潜血2+ 蛋白1+
コロナ禍で他の都道府県の行き来はなし。
対応は?
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実際こういう患者がくると、なにかのウイルス感染か、なんて思っちゃいます。
コロナのせいで海外渡航歴を聞く習慣がうすれて(※注 当時は京都や大阪に行っても渡航歴扱いされるほど地域は厳しい環境だった)輸入感染症のカテゴリは鑑別に浮かんでこなくなってきています。
私だけ?


この症例は、レプトスピラ症のつもりでプレゼンしてます。
PCRを、検査可能な場所におくって、ドキシサイクリン内服を考えるかもしれません。


レプトスピラ症

Leptospira sp.(GNR)によって引き起こされる人獣共通感染症
病原性レプトスピラは保菌動物(ドブネズミなど)の腎臓に保菌され、尿中に排出される。ヒトは、保菌動物の尿で汚染された水や土壌 から経皮的あるいは経口的に感染する。

疫学

東南アジアでの発生例が多い。
日本でも2007-2016年にかけて30都府県から284例の届出があり、国内感染例は15-42例発生とのこと。
国内の症例は台風や洪水後などの淡水暴露歴がある。

沖縄で川遊びをすると起こるので、レジャーやバーベキューをしていないか聞くべし!と教えてもらいました。

2023年に東京で出ましたね。
淡水暴露はないけど惣菜店でネズミが出ていた、とのこと。
診断されていない症例もあるのかもしれません。


症状など

潜伏期間は2-26日(平均10日)
症状は、発熱、頭痛、筋肉痛が主で、眼球結膜充血は比較的特徴的な所見だが、報告によってばらつきがある。
また、重症型では、黄疸、腎不全、出血傾向(肺出血など)を3徴とし、ARDSや心筋炎なども起こす(いわゆる、ワイル病)。

レプトスピラ症にみられる臨床所見




















検査

肝逸脱酵素上昇やCK上昇がみられる。
重症例では血小板減少やビリルビン上昇、腎不全など
尿検査では尿細管障害をみる

診断

・臨床検体からの菌の分離
・MAT法での急性期と回復期で抗体価が4倍以上の上昇
・MAT法で抗体価800倍以上
・PCRなどで遺伝子検出
・蛍光抗体法による菌体の照明

上記のいずれか1つを確認

日本では国立感染症研究所でPCR、MATともに可能。

治療

軽症例は、ドキシサイクリン 1回100mg 1日2回
アモキシシリンやアジスロマイシンが選択肢
重症例は、ペニシリンG150万U 1日4回、セフトリアキソン 2g 1日1回
(サンフォード 2020、UpToDate®︎より)

梅毒同様、Jarisch-Herxheimer reactionによる発熱に注意。



忽那先生の「症例から学ぶ輸入感染症 AtoZ Ver2(中下医学社)」では、淡水暴露で感染しうる感染症に、レプトスピラ、住血吸虫、アカントアメーバ、ネグレリアの記載がありました。
診断できる気しないっす。

思いつかないと聞けないですが、全身症状のある熱や頭痛、結膜充血があれば、レプトスピラを疑って淡水暴露やネズミの暴露を聞くことができるといいかもしれませんね。
肝障害や尿検査での潜血など探しに検査はしたいです。

ではまた。


結論:床上浸水はマジで心おられるから全人類2階に住んだ方がいい。

2023/08/27

よくわからない高カリウム血症の思い出

スミヨシです。

ふと昔見た症例を思い出すことがありました。

高血圧程度しか既往のない高齢女性の患者が尿路感染で入院。
生来健康でCre正常なのですが近医の採血を取り寄せると、だいたいK が5後半から6くらい
特に症状もなく治療もされていない。
入院時の採血ではK 3.6と正常。
CBCも正常(血小板がむやみに多いとかもない)
心電図は正常。
コルチゾールやRAAも問題なし。サプリ服用などもなかった。

なんだろなあ溶血かなあ、ARBの影響かなあと思いつつ、割とすぐ退院したので、そんなに気にしませんでした。
後に福知山で働いたときに、偽高カリウム血症について教わりました。
もしかしてこれだったのかなあと思ったものです。

偽性高カリウム血症
(NEJM.1990; 322:1290-1292)
(UpTpDate®:Causes and evaluation of hyperkalemia in adults)

ざっくりいうと、採血の際に駆血帯とクレンチング(手をグーパーするやつ)をすると、Kが上昇するというものです。
あと血小板増多の時にみられるものも個人的には偽性高カリウム血症でいいと思っています(UpToDate®にもそのようにカテゴライズされてました)。




NEJMの図、黒●が偽高カリウム血症疑いの患者で、白○がボランティアです。
クレンチングをすると全員Kが上昇という内容です。
1mmol/Lとか上昇してますね。

筋細胞の脱分極がすすむ→カリウム放出が促進という機序っぽいです。


検査技師(採血者)の介入で偽性高カリウム血症は改善するという症例もあり、啓蒙しだいがありそうです。
(医学検査 2016;65(3):310-6)


あの人はこの病態だったのかなあ、でもそういや結構やせている方だったけどそういう筋力少ない人でもカリウムあがるのかなあとか、ぼんやり思っていました。
で、最近になって別の偽高カリウム血症もあることを知りました。


家族性偽性高カリウム血症

その名の通りで、優性遺伝疾患の、家族性の偽高カリウム血症です。
ABCB6遺伝子の異常により、低温環境下で赤血球からのK + 漏出量が増加する、けど溶血絵性貧血を起こさないようで、カリウムだけがあがるようです。

日本の報告はかなり少なそうです。自分では2例だけ報告をみつけました。

(Intern Med. 2005;44:875-8.)
滋賀医大より
生来健康な19歳女性の高カリウム血症
K 7.0mEq/Lで近医から紹介⇀病院では3.7mEq/L
いろいろ検査されたが正常
血清と血漿のカリウムを同時にはかると、5.3と4.3というふうに差があった。
→家族とボランティアをあつめて、血液検体を、低温、室温、体温でインキュベートし、その後時間ごとにカリウムを測定


患者、父は他の群にくらべ、放置した時および低温処理でのカリウム上昇がすごい!


(CEN Case Rep. 2023. doi: 10.1007/s13730-023-00781-y. Online ahead of print.)

聖マリアンナからの報告
73歳女性と75歳女性の2例の高カリウム血症
いずれも他院からの紹介で、病院では正常
→低体温で保存するとカリウム値が著明に上昇

診療所では採血が外注なので冷蔵で長時間保存されることで偽性高カリウム血症が生じてしまう、との内容でした。
病院勤務医ではなかなか見ないかもしれません。
勉強になります。
診断されていない症例も多くいるのだろうとは思います。

まとめ
腎不全や薬剤の影響のない、無症状の高カリウム血症は、偽性高カリウム血症も鑑別にいれよう!

ということでよいですかね。

最初に出した症例がこれらに当てはまるかは不明ですが、よくわからない高カリウム血症の鑑別として心の片隅においておきたいですね。

ではまた。


結論:偽性低カリウム血症もあるぞ!

2023/08/23

肝硬変患者の上部消化管出血に、予防的抗菌薬投与は必要?

スミヨシです。

以前、食道静脈瘤の破裂を疑う、吐血&心肺停止の患者さんが、入院数日後の血液培養でE. coliが検出されたことがありました。

尿培養は陰性で、おそらくは腹腔内感染か、SBPか、もしくは吐血に伴う菌血症かみたいな鑑別でしょうか。


最近わけあってこのあたりをまとめているのですが、どうも抗菌薬投与はしておいたほうがよさそうですね。


肝硬変患者の消化管出血に対する予防抗菌薬

まずはガイドラインをみてみました。


日本:あまり記載なし やってもいいかもレベル

J Gastroenterol. 2021;56: 593–619.

米国:セフトリアキソンを推奨

Hepatology. 2021;74:1014-48. 

欧州:セフトリアキソン 場合によってはキノロン

J Hepatol. 2010;53:397-417.


なんかすでに結論ぽいですが、引用文献もみてみました。


Norfloxacin prevents bacterial infection in cirrhotics with gastrointestinal hemorrhage

(Gastroenterology. 1992;103:1267-72.)

119人の肝硬変+上部消化管出血患者

抗菌薬群(n=60)vs 対照群(n=59)

※ノルフロキサシン400mg1日2回経口投与7日間

感染 10% vs. 37.2%

菌血症/SBP 3.3% vs. 16.9%

尿路感染症 0% vs. 18.6%

死亡率 6.6% vs. 11.8%(統計学的有意差なし)

抗菌薬群で各イベントは減少している。


Antibiotic prophylaxis for the prevention of bacterial infections in cirrhotic patients with gastrointestinal bleeding: a meta-analysis

(Hepatology 1999;29:1655‐1661.)

肝硬変患者の消化管出血において予防的抗菌薬の効果を評価したメタアナリシス

5つの研究より抗菌薬投与群264人、非投与群270人

抗菌薬投与群は4-10日の抗菌薬

多分リスク差での比較です


感染:リスク差 32%改善

菌血症/SBP 19%改善 SBPに限ると7%改善

生存率(平均追跡12日) 9.1%改善

少なくとも短期間のハードアウトカムの改善はありそうです。


Norfloxacin vs ceftriaxone in the prophylaxis of infections in patients with advanced cirrhosis and hemorrhage

(Gastroenterology.2006;131:1049-56)

低栄養状態の腹水、肝性脳症、Bil>3mg/dLの2つ以上を満たす肝硬変患者で消化管出血を来した111人

ノルフロキサシン経口投与群(400mg 1日2回7日間投与)57人

vs

セフトリアキソン経静脈的投与群(1g 1日1回7日間投与)54人


10日間の追跡期間

感染 33% vs. 11%

菌血症 26% vs. 11%

SBP 12% vs. 2%

死亡率に有意差なし

⇀キノロン系は耐性の面から使いづらいのかもしれません。

死亡率にしてもかなり短期間のものなのでなんともいえない。


Meta-analysis: antibiotic prophylaxis for cirrhotic patients with upper gastrointestinal bleeding - an updated Cochrane review

(Aliment Pharmacol Ther.2011;34:509-18.)

1241人の肝硬変+上部消化管出血

抗菌薬投与 vs プラセボor投与なし

死亡率 RR 0.79

細菌感染による死亡率 RR 0.43

細菌感染 RR 0.35

これもハードアウトカムの改善がみられる。


まとめ

副作用の議論はあまりされていなさそうだけど、基本的には肝硬変患者の上部消化管出血に、予防的抗菌薬投与は投与したほうがいい

また、セフトリアキソンが好ましい(実際には重症なセッティングなのでメロペネムとかになりそうだけど、それがベストかは不明)


ではまた。


結論:日本のガイドラインは有料だけど英語版だと無料というホラーを味わった。