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2024/07/31

家族が溶連菌咽頭炎を発症した無症状の妊婦は予防的治療すべき?

スミヨシです。


以前、知り合いの産婦人科医から連絡があって以下のようなことを相談されました。


※症例は実際の症例を参考にデータや背景変更してます。

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30歳女性

妊娠25週の妊婦

X-2 同居の子どもが発熱+咽頭痛 迅速検査からA群溶連菌咽頭炎の診断となり治療

X 定期受診の際に、自身も治療すべきか相談

本人は無症状

子どもも解熱している。

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これはもう困ったもんですよ。

言うまでもなく、妊婦のGAS感染は激烈な経過をたどるパターンがありますので、注意しなければならないです。

一方で今治療を行うとそれを防ぐことができるのかと言われるとなんとも。。


そういうわけで調べてみました。

 

家族が溶連菌感染した妊婦の対応

UpToDate®の「Pregnancy-related group A streptococcal infection

それとPregnancy-Related Group A Streptococcal Infections: Temporal Relationships Between Bacterial Acquisition, Infection Onset, Clinical Findings, and Outcome

(Clin Infect Dis. 2013;57:870-6.)

を見てみました。

ですが、無症状での予防的治療に関しては載っていませんでした。


ただし上記の論文には、以下記載ありでした。

"Given the incidence of reported antecedent sore throat among women in our series (55.6% in the third trimester and 28.6% in both the 5–8 day and >8-day groups), pharyngeal screening for GAS may be warranted, particularly in those women whose family members include young children, especially those with active pharyngitis or upper respiratory illness."

→本研究で妊娠第3期の女性の55.6%、5-8日目および8日以上のグループではそれぞれ28.6%が、喉の痛みが生じたことをふまえると、特に、家族に若い子供がいる女性、特に現に咽頭炎や上気道感染症を患っている子供がいる場合には、GAS(A群β溶血性連鎖球菌)の咽頭スクリーニングが推奨されるかもしれない。


一方、これは妊婦では無いですが、別の論文では

"Asymptomatic carriage of GAS has been frequently noted among household contacts of patients with GAS pharyngitis. Up to one-third of households include individual(s) who will develop symptomatic GAS pharyngitis that warrants diagnostic testing and treatment. In studies examining the role of antibiotic prophylaxis of household contacts of patients with GASpharyngitis, penicillin prophylaxis has not been shown to reduce the incidence of subsequent GAS pharyngitis."

(Clin Infect Dis. 2012;55:1279-82. )

という記載がありました。

要するに予防投与を行っても発症率は変わらないようです。


少なくとも妊娠中or産褥婦の咽頭炎ないしは発熱に対して病歴次第で閾値低めに溶連菌のスクリーニングをしてもいいかもなと思いました。

無症状のうちに検査、予防治療を行うべき推奨はなさそうです。


妊婦の溶連菌検査は閾値を下げるべき?

国内における、妊婦に対するGASの検査閾値を低めにする意見として、母体安全への提言2019 Vol.10(PDF. 妊産婦死亡症例検討評価委員会 日本産婦人科医会 )では、

「Centorスコアに妊婦で1点をふやすべき」

という提言がなされています。

しかしそもそも咽頭痛がないorその前に激烈な経過になる症例があるのでそこをどうするかは難しいですね。

条件がゆるせば、咽頭炎が無い発熱の際にも溶連菌も選択肢かもしれません。


まあ、産褥婦ならさておき、妊婦をどこまで侵襲性GAS感染のリスクとするかというのもありますが、医療者も患者も症状に鋭敏になったほうがいいとは思っています。


まとめ

・妊婦において少なくとも無症状での検査・治療の利益は不明

・閾値を下げて検査を行うことは意識してよいかも。


ちなみのこの相談には、子どもの発症も少し前だし、本人は無症状なので、経過観察および咽頭痛や発熱があったら速やかに内科に受診する、という説明をしてみてはと提案しました。(実際にはとくに何もなく経過したようです)。

ではまた。


結論:GBSやGGSはジービーエスやジージーエスと読むのにGASはガスと読むのはちょっとデリカシーが無いんじゃないかと思う。


2024/07/18

【症例】70歳男性 細菌性眼内炎で失明後の幻視

スミヨシです。

稀ですが、血液培養陽性症例で、そのあと急な視力低下、内因性の細菌性眼内炎をきたすことがあります。

たぶん、カンジダの血流感染があった際には、CVをぬいて、血液培養フォローして、眼科に紹介しよう、という一連の流れがあると思います。カンジダは眼内炎起こしやすい、というのは有名かと思います。

UpToDateみると、人種差があるみたいで、北米やヨーロッパでは黄色ブドウ球菌や連鎖球菌が多いですが、東アジアではクレブシエラが多いみたいです。
個人的には、意外と黄色ブドウ球菌の細菌性眼内炎は見たことないですが、Streptococcus dysgalactiae(G群連鎖球菌)とかクレブシエラ、カンジダの細菌性眼内炎はしばし経験します。


以前経験した症例で70代男性、Streptococcus dysgalactiaeによる感染性心内膜炎と両側細菌性眼内炎の方がいまして、感染は落ち着いたんですけど失明した方がいらっしゃいました(※実際の症例からは菌名、病名、個人情報など改変しております)
穏やかな人でしたが、しばらくたってから、妻が刃物をもってやってきた、虫が見える、などの症状が出現しました。
さすがにせん妄だろうとは思いつつ、髄膜炎・脳膿瘍は否定しておこうと思い腰椎穿刺を施行しましたが特異的な所見はありませんでした。
会話は普通通り可能で、幻視?がくっきりと見えている、といった具合です。
さて、これなんでしょう。。




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というわけで表題のシャルル・ボネ症候群ですね。
まあ、あまり有名な疾患ではないですし、ちゃんとした疾患定義はないのですが、それなりに症例報告はあります。

シャルル・ボネ症候群


・急に視力低下・失明に陥った患者の、幻視 Curr Treat Options Neurol. 2019;21(9):41.


ということになると思います。
高齢者に起きやすいらしく(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK585133/)、それなりにしっかりした幻視エピソードがあることが多いみたいです。
下肢切断患者の幻肢痛ににた概念にも思います。

もう正直、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK585133/)が一番まとまっているのでこれを参考にすればいいと思います!!!!

ほかの精神疾患・せん妄の合併の有無で診断がかわるかはわかりません。

治療としては抗精神病薬やSSRI、バルプロ酸など列挙されていますが、とくに定まったものはなさそうです。

自験例は最初リスペリドン使用したり、昼夜逆転でデジレルを使用したりしてましたが、リハビリが進み、疾患への理解や需要をしてもらううちに自然と幻視は消失しました。

まあ、知っておいて得する場面は少ないでしょうが、変に精神科病院に転院させたりしなくてもいいかとは思うので、いつか役に立つかもと思って頭の隅においておくといいかもしれません。
あと、こういう症状を診たときに疾患名がいえると単純に知識ありそうでカッコいいので言えたらいいと思います。

うそです。たいてい知識マウントマンとして扱われます。医師の世界は厳しいです。

眼科ではあるあるなのかもしれませんが、内科ではそんなに急な失明を扱うことがないので、勉強になりました。
細菌性眼内炎でのシャルル・ボネとか多分ケースレポート書けるはずなのでコロナがおわったら書きます。。すみません。。。世に出さなくては。。
※追記 書いてない。世に出ない。


ではまた。



結論:アハ体験の99%は幻視

2024/07/15

S. dysgalactiae(G群溶連菌)はIEの典型的な菌から外すべき?

スミヨシです。


感染性心内膜炎(IE)は、持続菌血症から存在を疑うことがあるし、その菌血症の解除が重要です。

つまり、IEの診断、治療にフォローの血液培養がかかせません。

IEと確定している症例はあまり困らないのですが、問題はあまねくGPC菌血症に血液培養フォローが必要なのかという点です。


他院の先生から、


たとえばG群溶連菌の蜂窩織炎まで血液培養フォローが必要なのか


ということを聞かれたので調べてみました。

(というより師匠から教えてもらいました)


Duke-ISCVID2023

そもそもこの議論が生まれた背景に、Dukeのupdateがあります。

Duke-ISCVID 2023では、大基準の一つが、

・IEに矛盾しない菌が血液培養から2セット以上

となっています。


で、このIEに矛盾しない菌、以前はStreptococcus viridans, Streptococcus bovis HACEK staphylococcus aureus 市中のenterococcusだったんですね。

ところが今回からはS.pneumoniaeやS.pyogenesを除く全てのstreptococcus属、などが追加されました。

G群溶連菌の蜂窩織炎としても、2セット血液培養陽性で38℃以上の熱があればpossible IEということになります。


で、そういった症例がIEでないことを示すには、

・菌血症が速やかに消失すること

・心臓の画像検査でIEの画像所見がないこと

が必要になってしまいます。


Streptococcus dysgalactiae(G群溶連菌)はIEの典型的な菌から外すべき?

個人的にはフォーカスの分かっている、とくに蜂窩織炎がフォーカスの溶連菌に対して血液培養フォローをしたことはほとんどありません。たぶん。

感覚的にはStreptococcus dysgalactiaeのIE、特に蜂窩織炎からIEになるケースは相当珍しいと感じています。


で、過去の菌血症のレジストリをDuke-ISCVD2023の基準に再分類した研究を教えてもらいました。


Performance of the 2023 Duke-International Society of Cardiovascular Infectious Diseases Diagnostic Criteria for Infective Endocarditis in Relation to the Modified Duke Criteria and to Clinical Management-Reanalysis of Retrospective Bacteremia Cohorts

Clinical Infectious Diseases 2024;78(4):956–63


スウェーデンの4050の菌血症エピソードStaphylococcus aureus, Staphylococcus lugdunensis, non–β-hemolytic streptococci, Streptococcus-like bacteria, Streptococcus dysgalactiae, Enterococcus faecalis, and HACEK)を、2000 年の修正Duke と Duke-ISCVID で比較



上図の通りで、修正DukeでRejectedに分類されたもののうち、475例がDuke-ISCVIDではPossibleに分類され、修正DukeでPossibleに分類されたもののうち、Duke-ISCVIDでは13例がDefiniteに分類された。

Duke-ISCVIDを用いるとPossibleがすごく増えちゃうわけですね。



とくにRejected→Possibleに影響しているのは、S.dysgalactiaeとE.faecalis

S.dysgalactiaeの症例の多くは蜂窩織炎+発熱であったとのこと。

また、S.dysgalactiaeのPossible IEで実際にIEとして治療された症例は0だった。(Supplementary Table 1)

さらにDuke-ISCVIDでS.dysgalactiaeがIEリスクと示された根拠になった論文は、デンマークのナショナルレジストリの中でIEの病名がついている人で、最低2週間入院していた人を対象にしているため、病名の誤分類の可能性があると。

(Circulation.2020 Aug 25;142:720-30.)


⇀著者たちはS.dysgalactiaeは「IEに矛盾しない菌」から外すべきでは、と主張。


直感的には受け入れやすい主張で、S.dysgalactiaeのPossible IEは増えるけど、だれもIEとして治療されていなかった、ということになります。

もちろん細かな症例フォローがなされているかは不明ですが。


まとめ

Streptococcus dysgalactiaeはDuke-ISCVIDで格上げになったものの、実臨床ではIEの深追い(ルーチンの血液培養陰性確認、心エコー)は不要かもしれない。


僕がもともとこの意見なので、バイアスありありの記事です。

ではまた。


結論:昔、dysgalactiaeはGが入っているからG群連鎖球菌っておぼえたけど、pyogenesにもagalactiaeにもGが入ってた。

2024/07/06

Candida属に対するmicafunginとcaspofunginのMICのギャップってなに?

スミヨシです。




先日、他院とのカンファレンスで、

「このCandida、ミカファンギンとカスポファンギンのMICのギャップがあります」

という指摘がありました。

何を指摘しているのかもよくわからなかったので、聞いてみましたが、自分で調べるように言われました。

結果、本当にわからなかったのですが、調べた内容を羅列します。


Candida属に対するcaspofungin(CPFG)のブレークポイント


あんまり認識していなかったですが、そもそもEUCASTのCandidaのブレークポイントの欄にはCPFGの欄は全て「note」になっていました。
曰はく、

"3. Isolates that are susceptible to anidulafungin as well as micafungin should be considered susceptible to caspofungin, until caspofungin breakpoints have  been established. EUCAST breakpoints have not yet been established for caspofungin, due to significant inter-laboratory variation in MIC ranges for caspofungin."

と記載。
anidulafunginに感受性があれば、感受性はあると判断するけど、CPFG自体のMICは検査室間でばらつきがあるとのことでしょう。


Micafungin(MCFG)のMICでも代用できる可能性が高いとのこと。



CPFGのMICがばらつきの多い理由としては、以下が推測されています。

・caspofungin powder source
・stock solution solvent:溶媒
・powder storage time length and temperature
・MIC determination testing parameters


C. parapsilosis以外ではdisk diffusion testで22mg以上であれば、概ね感受性株かもしれない。


そういうわけで、MCFGとCPFGのMICのギャップというよりはCPFGのMICは当てにならない、ということなのでしょう。
たぶん。おそらく。きっと。そういうことでしょう。

anidulafungin, もしくは日本ではMCFGの感受性がよければCPFGを使用してもいいのかもしれません。
ではまた。

※追記
MICプレートがtreated polystyreneかどうかで変わるかも

結論:カスポファンギンをいつ使うかは全く知らん!!!